危機の後にやってくる平常時の全容はまだ明らかになっていませんが、大部分の半導体企業は危機の初期段階から断固とした行動をとり、回復力の構築と、将来の成長に向けた業界のポジション構築に努めています。今後の計画立案をするなら、今こそ次の平常時について考えを巡らせ、今回の人道的・経済的危機から強さをまして立ち上がるための戦略的方向性を設定すべきで時です。
世界GDPの回復
McKinseyは9つのGDP回復シナリオを策定しましたが、経済状況の進展に伴い、世界の経営者2,000人以上を対象に調査を行ったところ、そのうち2つのシナリオの可能性が最も高いことがわかりました。2つのシナリオのいずれも、コロナウイルスの流行が収束し、壊滅的な経済被害は回避されることを前提としています。最初のシナリオでは、世界のGDPは2021年の第1四半期に回復すると予想し、2つ目のシナリオでは、回復は2022年後半まで遅れると予想しています。
産業や地域によっては、他の産業や地域よりも早く回復するため、回復の地図は一様ではありません。
2020年から2021年の半導体需要予測
COVID-19危機は、半導体業界に未曾有の課題をもたらしました。2007年~2008年の不況では、消費需要が低迷しました。しかし、今回の危機は需要と供給の両面に影響が及び、二重のプレッシャーが生じています。
当社の需要予測は、この2つの最も可能性が高いGDP回復シナリオに加え、中国の回復について行った広範な調査、専門家へのインタビュー、研究に基づいています。下の2つの図表は、COVID-19の発生とそれに伴う世界経済の減速により、2020年の半導体市場全体が最大10%の落ち込むことを予想しています。しかし、2021年にはほとんどの分野で成長が見られ、ポジティブなシナリオでは市場規模が2019年の値を上回ると予想しています。PC用半導体分野は最も低成長となる見込みです。無線通信と自動車セグメントは2020年にそれぞれ21%、27%の減少となり、2020年に危機の影響を最も強く受けると予想されますが、2021年には回復し、ポジティブなシナリオではそれぞれ最大19%と36%の成長が見込まれています。
半導体市場が完全に回復するまでには時間がかかるかもしれません。業界の回復のタイミングは、流行の収束、政府の経済安定化への取り組み、世界経済の回復に大きく左右されるでしょう。
この危機からより強く立ち上がるには
半導体企業は、これまでの危機や不況の経験から、すでに効果的な危機管理戦略を策定していました。しかし、今回の危機状況は類似する経験がありません。全体的に見て、3つの活動によって半導体企業の危機サイクルを通した(through-cycle)回復力と成長力を改善できると考えています:
- 危機開始時のポジションを定義する:ベースラインを設定することで、現状の戦略、社内能力および対外ポジションの全体的視野が得られ、将来の戦略判断に活かすことができます。
- 経済的・政治的回復シナリオを開発する:どのような経済的・政治的回復シナリオを中心に置くかを検討・決定し、それに基づいて企業固有のシナリオを作成します。そのためには、長期的・短期的需要の分析と共に、政府の補助金、景気刺激策、産業変化の効果を見ることが重要です。
- 次の平常時に備える:次の平常時に備え、この危機からさらに強くなって立ち上がるために、企業は景気後退期に市場シェアを拡大することに集中すべきです。競合他社が回復力を重視する間に、自社が財務的に安定していると考える企業は、成長と市場シェア拡大に注力することができます。しかし、このマインドセット(考え方)は、組織全体に浸透しないと最大の効果を発揮できません。
さらに力をつけて立ち上がるための条件としてあげられるのが、投資と売却を適切に行うための戦略的・体系的アプローチを定めることです。これは、何年もかけて時価総額のかなりの部分を占めるようになったいくつかの小規模な取引の方が、多くの場合、1つの大規模な取引よりもプラス効果が大きいという意味です。成長の余地をみつけ、設備投資、研究開発、M&A戦略を見直すことが、危機からより強く立ち上がるための土台となることを、これまでの歴史が物語っています。Inel共同創業者ゴードン・ムーア氏がかつて言ったように、不況から抜け出すための出費を惜しむことはできません。言い換えれば、設備投資と研究開発費を適度に削減し、それを将来の成長ドライバーに振り向けろということです。こうしたアプローチは、過去の危機から導かれた見識によって裏付けられています。
今回の危機は大変な困難となっていますが、企業にとっては競合他社を引き離すチャンスでもあります。半導体業界全体としては、他業界よりも回復力があります。また、世界的なデジタル化の加速は、大きな追い風となり、世界経済の回復の重要な要素ともなるでしょう。
McKinseyのコロナウイルスパンデミックのビジネス影響に関する最新の考察については、毎日更新されるこちらのWebサイトをご覧ください。