前回のこのコーナーでは、コロナウィルスによるスマホ市場への影響について述べさせて頂きました。日本ではウィルス拡散の「第一波」が収束しつつあるようですが、秋冬に向けて「第二波」の到来が確実視されていること、また世界に目を向ければ感染者数がまだ拡大傾向にあることを考えると、我々はこの問題とは当面付き合い続けなければならないようです。今回は、コロナウィルスの影響が様々な市場にどのような影響を及ぼしそうか、述べてみたいと思います。ここでご紹介させて頂くのは、日系電機大手8社(日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、パナソニック、シャープ、ソニー)の決算コメントです。
まず日立製作所。コロナの影響は、1-3月期だけで売上1009億円、営業利益337億円の下振れがあったようです。2021年3月期の売上は、前期比19%減を見込んでいますが、今期から日立化成が連結から外れるため、元々減収見込みでした。コロナによる売上の下振れは1兆200億円、営業利益の下振れは3010億円、というのが同社の予測です。航空・自動車業界を大手顧客に持つインダストリー部門、ビルシステムや鉄道関連の事業が中心のモビリティ部門、家電や自動車関連の事業が中心のライフ部門、などが大きな影響を受けるだろう、としています。
日立製作所
次に東芝。コロナの影響は、1-3月期だけで売上518億円、営業利益203億円の下振れがあったようです。2021年3月期の売上は前期比6%減、コロナによる売上の下振れは2800億円と予測しています。これに伴う営業利益の下振れ予測は900億円、日立に比べればコロナによる影響は小さくなりますが、下振れ幅の大きい自動車やFA関連事業を持っていないことが幸いしているようです。
東芝
次に三菱電機。1-3月期におけるコロナの影響は開示しませんでしたが、2021年3月期の売上は前期比8%減、コロナによる売上の下振れは4400億円と予測しています。これに伴う営業利益の下振れは1350億円、というのが同社の予測です。自動車・FA部門で構成される産業メカトロニクス部門は、かつて2000億円近い営業利益を叩き出した同社の稼ぎ頭ですが、この部門の今期営業利益見込みはわずか130億円。コロナの影響がいかに大きいかが伺えます。
三菱電機
次にNEC。コロナの影響は、1-3月期だけで営業利益50億円の下振れがあったようです。2021年3月期の売上は前期比2%減、営業利益は同192億円増を見込んでいて、コロナによる下振れの影響は開示していません。むしろ、デジタル化、リモート化、オンライン化、省人化、タッチレス化などが進めば、同社にとってはプラスに作用する可能性もあります。
NEC
次に富士通。1-3月期におけるコロナの影響は開示しませんでしたが、受注に関しては影響なかった、とコメントしています。2021年3月期の業績見込みも開示しませんでしたが、NECと事業領域が似ている同社にとって、コロナの及ぼす影響は同社にとってもプラスに作用する可能性があります。
富士通
次にパナソニック。コロナの影響は、1-3月期だけで営業利益890億円の下振れがあったようです。2021年3月期の業績見込みは開示しませんでしたが、オートモーティブ部門、FAが中心のインダストリアルソリューションズ部門は、とりわけコロナの影響を大きく受けそうな分野であること、同社の中核事業でもあるアプライアンスへの影響も大きいこと、などを考えると、営業利益で2000億円規模の下振れを覚悟せねばならないかも知れません。
パナソニック
次にシャープ。コロナの影響は、1-3月期だけで売上1780億円、営業利益360億円の下振れがあったようです。2021年3月期の業績見込みは開示しませんでしたが、同社の事業の中核である8Kエコシステム部門は売上がディスプレイとテレビで構成されており、この部門は1-3月期だけで売上1100億円、営業利益210億円という下振れ影響がありました。今期の影響がこれを上回る可能性は極めて高く、会社全体で黒字を維持できるかどうかがポイントになりそうです。
シャープ
最後にソニー。コロナの影響は、1-3月期だけで営業利益682億円の下振れがあったようです。2021年3月期の業績見込みは開示しませんでしたが、会社は「19年度の営業利益8455億円から3割ダウンの可能性がある」とコメントしています。ゲームやAV機器だけでなく、音楽、映画、金融の各部門におけるリスクを考えると、3000億円近い下振れインパクトも十分あり得るかも知れません。
ソニー
IHS Markitでは、2020年の世界自動車生産台数を前年比21%減少の7100万台程度と予測しており、これはリーマンショック時(同12.4%減)より厳しい見通しになります。産業機器も、医療機器を除けば大幅減を免れないでしょう。FA関連、ビル関連を例に取れば、IoT導入による効率化・省エネ化という一部の需要しか期待できないようです。
在宅勤務に伴う特需でパソコンが売れた、という話もあります。現時点でスマホ市場よりは好調のようですが、残念ながら長続きはしないでしょう。
好調に推移しているのはデータセンター関連で、特にAmazonやMicrosoftは自社のデータセンターに積極的な投資を行っているようです。
コロナの影響は、国や地域によって規模も内容も差異があると思いますが、電機大手8社のコメントから日系企業への影響を総合すると、自動車業界、FAなどの産業機器、家電、という順番でダメージが大きいことが分かります。影響が小さいのはITインフラで、場合によってはプラス作用も期待できる、というのが現状の見方です。
大山 聡(おおやま さとる)
慶應義塾大学 大学院管理工学にて修士課程を修了。
1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年まで