最近、新車を購入した方は、車の機能に何か異常があるとドライバーに警告することに気づいているはずです。修理や大掛かりな調整が必要になる場合は、工場にも警告を発します。こんな機能が自分の体にも付いていて、救急治療室に運び込まれる前に点検を指示してくれたら良いと思いませんか? 米国ではGDPの18%近くがヘルスケアに投資されています。経済のこれほど重要な分野に、私たちの産業も当然注目しているわけです。SEMIが開催した一連のSMART MedTechウェビナーでは、患者とヘルスケア・プロバイダーにエレクトロニクスの影響の重要性を説明しただけではなく、デバイスメーカーに対し、新たなソリューション開発に向けた数多くのアイディアを提供しました。
SEMI Gets Smart
SEMIは、半導体サプライチェーン全域にわたる2,200社以上の会員企業と協力して、多くの重要なトピックに取り組んでいるほか、スマート・モビリティ(関連記事)、スマート・メドテック(以下で説明)、スマート・マニュファクチャリング、スマート・データの5つの特別分野にも力を入れています。

Smart MedTechは、最近の4回のウェビナーのテーマでした。SEMIのCTOであり、ナノバイオ材料コンソーシアム(NBMC)のエグゼクティブ・ディレクターであるメリッサ・グルペン=シェマンスキー氏が企画しました。NBMCのミッションは、フレキシブルかつウェアラブルな人間のパフォーマンス・モニタリングを実現することです。グルペン=シェマンスキー氏はプログラムの紹介の中で、ヘルスケアは現在のプロバイダーが中心のアプローチから、パーソナライズされたケアモデルへとシフトしていくだろうと強調しました。これには次のような特徴があります:
- 成果ベース
- 地理的制約を受けない分散型
- 個人の健康や医療ニーズに特化
- これまでない連携をしたプロバイダーのチーム
こうした特性を実現するためには、マイクロエレクトロニクスの貢献が欠かせません。ですから、SEMIと会員企業がプラットフォーム構築を進め、資金提供と研究開発の商品化、さらには潜在的なユーザーや受益者を教育に取り組んでいるのです。ウェビナーには専門家が4回にわけて登壇し、この広範で複雑な分野を取り上げ、上記の特徴にマイクロエレクトロニクスがどのように貢献しているかを説明しました。4回のウェビナーは録画されており、SEMI会員は視聴することができます。視聴と講演資料の入手方法については、SEMIにお問い合わせください。
バイオマーカーからバイオケミカルセンサー、生理学的関連性まで
人体のパフォーマンスをモニターするために、研究者はまず、どのバイオマーカー(特定の疾病によって濃度が変化するタンパク質等の物質)が身体の特定の状態を示すかを理解し、そのデータを取得して処理する方法を理解しなければなりません。グルペン=シェマンスキー氏が司会した8月5日のウェビナーでは、カリフォルニア大学デービス校のChristina Davis氏、米国空軍研究所のジJennifer Martin氏、Sean Harshman氏、Pacific Diabetes TechnologiesのKenneth Ward氏が、この分野で進行中の取り組みを発表した。
Davis氏は、99%が水分、1%がバイオマーカーである呼気を分析する上での課題について話しました。彼女のチームで開発したハンドヘルド・アナライザ(図1)を紹介すると共に、収集したデータをどのように解釈し、必要に応じてどのようなフォローアップ治療を行うべきかを決定する方法について詳しく述べました。
図1:手のひらサイズのバイオマーカー分析用μCON呼気マイクロコンデンサー
(出所:カリフォルニア大学デービス校)
空軍研究所のMartin氏とHarshman氏は、航空隊員のパフォーマンスを最大限に引き出すために、現在および将来の低侵襲技術を隊員のモニタリングにどのように使用し、自己治療のアドバイスを行っているか、概要を説明しました。Pacific Diabetes TechnologiesのWard氏は、低侵襲皮下酸素センサーを使用して出血を検知し、それをコントロールする方法を示しました。
搬送中のケアと臨床診断
怪我をすぐに正しく治療することは、患者の苦痛を軽減するだけでなく、完全に回復する可能性を高めることにもつながります。空軍研究所のMatthew Dalton氏が司会した8月12日のウェビナーでは、空軍研究所のDerek M. Sorensen氏、ミズーリ大学コロンビア校のZheng Yan氏、米国国防総省バーチャルヘルス・プログラム管理室のMelinda Eaton氏、General Electric(GE)ResearchのAzar Alizadeh氏が、即時に専門的なケアを実現するための貢献内容について概説しました。
空軍研究所のSorensen氏は、騒音、暗闇、暑さ、寒さ、揺れのある飛行機の中で救命医療航空輸送チーム(CCATT)が医療を行う際の様々な課題や、機材や人員の制約について説明し、経験豊富な医師であっても、このような状況下で緊急手術を行うことがいかに難しいかを説明しました。
Yan教授は低コスト性を重くとらえ、鉛筆と紙だけで製造できるオンスキンウェアラブルセンサーを学生とともに開発したことを紹介しました。
Eaton氏は、国防総省が医療部隊の兵士支援準備が万全であることを保証するための戦略を概説しました。さらに、国防総省の伝統的な健康管理責任の広範な範囲について議論し、Covid-19は現在の重要な要素であると言及しました。
Alizadeh氏は、GEのマイクロエレクトロニクス・ソリューションがどのように医療の効率を改善し、医療ミスを減らし、入院期間を短縮し、介護者のワークフローを改善するかについて述べました。Alizadeh氏は、GEがよく知られた大型で据え付け型の医療機器や通信インフラ(図2)に加えて、データを取り込むためのスキン・パッチ型などのウェアラブル・センサーも提供していることを示しました。
図2:未来のモニタリング:2017年、マーシー病院は慢性疾患を持つ患者を含めて
80万人の患者に遠隔医療を提供した。患者と医師の比率は、米国平均300:1に対し、
マーシー病院では=1100:1である。(出所:GE)
人体のウェアラブル機器が受傷から復帰までの統合された連続ケアの迅速な判断を実現
上の図2が示すように、マイクロエレクトロニクス機器によって患者のケアと医療従事者の効率は向上できますが、ただし十分なデータをタイムリーかつ正確に取得できる場合に限ります。そこでウェアラブルの重要性が高まるのです。空軍研究所のJeremy Ward氏が司会をした8月17日のウェビナーでは、米国食品医薬品局(FDA)のChristopher Scully氏、空軍研究所のセンサー部門のAshleigh Coker氏、同航空隊員システム部門のTed Harmer氏、同Regina Shia氏が、NextFlexのOxana Pantchenko氏に向けて、どのようにウェアラブルを共同開発しているかを紹介しました。Scully氏は、FDAの組織とその責任を紹介し、高価値の正確なデータが提供できること、誤報や機器の故障が引き起こす被害、またこれに関連したFDAの規制的役割を説明しました。
空軍研究所のCoker氏は、いくつかの例を挙げながら、現代の戦争でセンサーが果たす不可欠な役割を語り、担当部門のオペレーションの運用を説明した後、兵士を中心においた設計プロセスを示しました(図 3)。
図3:兵士を中心においた設計プロセスのステップ、およびプロセスにおける複数の
頭脳と視点の必要性(出所:米国空軍研究所)
空軍研究所のHarmer氏は、陸・空・海・宇宙の各軍間の効率的な協力には、データの収集と計算を行う優れた通信アーキテクチャとプロトコルが重要となることを述べました。
NextFlexのPantchenko氏は、標準に準拠したウェアラブル脳波(EEG)、筋電図(EMG)、電気泳動(EOG)デバイスについての説明資料を用意しました。発表は空軍研究所のRegina Shia氏が担当しました。
自動化、自動運転とAI
8月26日に開催された第4回ウェビナーでは、ウェアラブルとデジタルヘルスのコンサルタント会社Profusa, Inc.の創立者であるNatalie Wisniewski氏が司会を務め、コロラド州立大学のMichael Kirby氏、Harmonize HealthのKevin Zhao氏、armi/biofab USAのMary Clare McCorry氏、ETH ZuerichのAndreas Caduff氏が講演しました。
Kirby教授は、データの分析で有意な結果を得るためには、いくつかの数学的原理を適用する必要があることを概説しました。彼は、ある病原体に対する、各個人の感染のしやすさ、耐性、抵抗力は、遺伝的要因によって大きく左右されることを強調し、細菌が今日の抗生物質に対して耐性を得ている可能性を警告しました。
Harmonize のZhao氏は、リモートケアにおける予測分析の重要性、誤報をフィルタリングする方法、費用対効果の高い最善のケアを提供する方法について述べました。また最後に、コンピュータやアルゴリズムが臨床スタッフの代わりになるわけではないことを強調しました。
McCorry氏は、armi(先端再生製造研究所)のプロジェクトであるbiofab USAが、センサーと自動化を利用してどのように代替組織や臓器を増殖させているかを概説しました(図4)。また、工学的原理と生命科学を用いて、ガイド細胞を代替組織に成長させる方法が説明されました。同社では、現在のラボベースの能力を、工業規模の細胞ファウンドリーにまで拡大することを計画しています。
図4:研究室における耳軟骨の成長(出所:armi/biofab USA)
まとめ
McCorry氏は自身の発表とウェビナー・シリーズ全体を次のようにまとめました:
- 人体は3Dで、非常に複雑で、動的で、多面的な生物学的構造物です。
- 皮膚は、身体とウェアラブル・センサー間のインターフェースとして適しています。
- 生理(バイタル・サインなど)、行動、外的要因を結びつけることは、良い結果を得るために重要です。
- 医療方法やデバイスを成功させるためには、検証、バリデーション、FDAの関与が重要です。
- センサー、通信、コンピューティング(AI/ML)は、医療従事者に取って代わるものではなく、補完するものです。
- 現在の医療方法やデバイスより、明日のソリューションは優れています。時代におくれないようにしましょう。
個人的コメント
8時間に及ぶプレゼンテーションを数ページにまとめるには、大幅な要約と割愛が必要です。SEMIの担当者に連絡して、ウェビナーの記録をご覧になることをお勧めします。エレクトロニクスサプライチェーン全体の素晴らしいネットワークを通じて、SEMIは多くの分野の専門家を招聘し、ウェビナーで貴重な情報を伝えています。
アメリカ軍、特に空軍研究所が航空隊員や女性の医療支援にこれほどまでに力を入れていることに感銘を受けました。健康な隊員でなければ、配置が指示された最新の兵器システムを最大限に活用できないということです。
このSmart MedTechウェビナー・シリーズは、多くの医療専門家が検査中あるいは手術の前後に私に語ったこと、「人体はバイオエンジニアリングの傑作である」を裏付けるものです。ウェビナーでは、スタンフォード大学の脳健康学の授業で学んだことを思い出しました。私たちの脳は、今日のコンピュータにかなり近い計算結果をすばやく求めるのに、約20ワットしか必要としません。これが、コンピュータアーキテクトとAI/MLの専門家のためのベンチマークとなっています。
本稿は3D InCitesの許可の元で転載された記事を翻訳したものです。